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東京高等裁判所 昭和51年(ラ)972号 決定

抗告人 萩原今朝雄

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一、抗告人は、「原決定を取消し、さらに相当の裁判を求める。」との裁判を求め、その理由の要旨は次のとおりである。

(一)  抗告人は、本件競売の添付債権者兼本件建物の競落人であるが、昭和四九年一〇月一三日鏡済商事株式会社から、本件債務者兼本件建物所有者根岸勇が昭和四八年一二月二五日同会社に対し設定した順位三番の抵当権、及び同会社が昭和四九年六月一日東京簡易裁判所昭和四九年(イ)第二四六号事件において成立した和解により右根岸勇から取得した本件建物の所有権を譲受け、昭和四九年一〇月一五日右抵当権の移転登記及び所有権移転仮登記の移転仮登記を経由した。したがって、本件競売開始決定のあった昭和四九年八月一二日当時は本件建物の所有権者は右根岸勇から鏡済商事株式会社に移転していたものであり、その後本件建物は抗告人の所有に帰していたにもかかわらず、本件競売手続は本件建物を本件債務者根岸勇の所有として扱い、本件競落許可決定に至ったもので違法である。

(二)  右根岸勇は、昭和五〇年七月八日本件競売の添付債権者株式会社トーメンに対し金五〇万円を内入弁済し、同会社との間において同会社が本件建物に対する競売申立を取下げる旨合意した。しかるに本件競売手続は右取下げのないまま続行された違法がある。

よって、本件競落許可決定の取消を求める。

二、当裁判所の判断

本件記録によれば、本件競売は債権者大和商事株式会社の順位一番の根抵当権(昭和四七年一二月二一日設定登記)の実行申立に基づき昭和四九年八月一二日開始されたものであるが、本件建物の所有者根岸勇は、昭和四八年一二月二五日鏡済商事株式会社に対し、本件建物につき被担保債権額二千万円の順位三番の抵当権を設定し、同時に本件建物を目的とする代物弁済予約をして、昭和四九年二月二日同会社に対し右抵当権の設定仮登記及び所有権移転請求権仮登記を経由したこと、さらに根岸勇は昭和四九年六月一日同会社との間で、東京簡易裁判所昭和四九年(イ)第二四六号事件において、同会社に対し本件建物が同会社の所有であることを認める、但し昭和四九年六月末日までに金二千万円で買戻すことができる旨の和解を成立させていること、その後抗告人は昭和四九年一〇月一三日鏡済商事株式会社との間で右順位三番の抵当権及び右和解における同会社の地位を譲受ける旨契約し、昭和四九年一〇月一五日右抵当権の移転登記及び所有権移転仮登記の移転仮登記を経由していることが認められる。右事実によれば、鏡済商事株式会社は根岸勇との間で本件建物につきいわゆる仮登記担保契約を締結したものというべきであるから、原則として被担保債権の優先弁済を受けることを目的とするものであり、しかも右和解成立の事実によっても鏡済商事株式会社が本件建物の所有権を確定的に取得したものと解することはできないというべきであるから、同会社の権利の行使としては本件建物を債務者根岸勇の所有として競売に及んだ他の債権者に対し、自己の債権の優先弁済権を主張し、その競売手続に参加してその満足をはかる範囲に限られると解されるのである。したがって、同会社から本件建物の所有権を譲受けたとする抗告人の抗告理由(一)は理由がないものというべきであり、採用できない。

又競売申立を取下げる旨の合意が成立したこと(本件ではかかる合意が債務者根岸勇と債権者トーメン株式会社間で成立したことにつきこれを認めるに足りる疎明はない。)は競売法三二条によって任意競売に準用される民訴法六七二条一号にいう異議事由に該当しないと解するのが相当であるからこれをもって右競売法の規定によって任意競売に準用される民訴法六一八条二項、三項による競落許可決定に対する抗告理由とすることはできない。したがって抗告理由(二)も採用できない。

そしてその他本件記録を精査してみても、原決定を取消さなければならないような違法はみあたらない。

よって、本件抗告を棄却することとし、抗告費用の負担につき民訴法八九条、九五条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 瀬戸正二 裁判官 小堀勇 小川克介)

〈以下省略〉

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